独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報サービス ホームページ 参照 より抜粋
1.卵巣がんとは
卵巣は子宮の両わきに各ひとつずつある親指大の楕円形の臓器です。生殖細胞である卵子がそこで成熟し、放出されます。それとともに周期的に女性ホルモンを分泌しています。
卵巣にできる腫瘍の85%は良性です。卵巣の腫瘍はその発生する組織によって大別されます。最も多いのは、卵巣の表層をおおう細胞に由来する上皮性腫瘍で、この中には良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)の他に良性、悪性の中間的な性質をもつ腫瘍(中間群)があります。上皮性腫瘍はさらに5つの細胞型に分かれ、それぞれ異なった性格をもっています。上皮性のがんは卵巣がんの90%を占めています。
中略
卵巣がんの組織型は多様であり、その発生も、単一の機序では説明できません。卵巣がんの発生と、強い関連性を示す単一の要因はありません。卵巣がんの発生には、複数の要因が関与していると考えられています。卵巣がんの確立したリスク要因は、卵巣がんの家族歴のみとされています。大部分の卵巣がんは散発性ですが、家族性腫瘍として、乳がんと同じく、BRCA1、BRCA2遺伝子の変異が知られています。他に、リスク要因として出産歴がないことが指摘されています。また、経口避妊薬の使用は、卵巣がんのリスクを低下させます。婦人科疾患では骨盤内炎症性疾患、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症がリスク要因として指摘されています。その他、可能性のあるリスク要因として、肥満、食事、排卵誘発剤の使用、ホルモン補充療法が挙げられます。
卵巣は腹部にあって腫瘍ができてもはじめはほとんど自覚症状がありませんので、2/3以上は転移した状態ではじめて病院を訪れます。卵巣がんに最もよくおこる転移は、腹膜播種(ふくまくはしゅ)です。転移は卵巣の表面からちょうど種をまくようにがん細胞が腹膜に拡がっていくので「腹膜播種」といわれています。腹膜播種は卵巣の周りにおこりやすいのですが、横隔膜という、卵巣から最も遠く離れた腹膜にもよくみられます。腹膜播種が進むと腹水がたまってきます。横隔膜からさらに胸腔内にがんが拡がると胸水がたまってきます。
リンパ節転移もよくおこります。これは後腹膜といって腹部大動脈の周りや骨盤内のリンパ節がはれ、次第に胸部や首のリンパ節にも拡がっていきます。
転移のない卵巣がんは手術だけで治りますが、転移した状態ではじめて治療を受ける場合は、手術だけですべてのがんをとり除くことはできません。残された腫瘍に対しては、手術後に抗がん剤による治療が行われます。
7.病期(ステージ)別治療
T期
手術によってがんのある卵巣を切除します。片側の卵巣、卵管だけを切除する場合と、両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除する方法があります。大網は一見して転移がない場合でも切除します。切除した大網を手術後検査すると顕微鏡的な転移が見つかることがあります。転移があれば、I期ではなくIII期ということになります。後腹膜リンパ節は、手術時に転移が疑われる場合、サンプリングをしてすぐに病理検査をします。病理検査の結果、転移があれば骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節を郭清します。転移があれば、I期ではなくIII期ということになります。
手術後、摘出物の顕微鏡的検査の結果、卵巣以外にがんが転移していないことがわかって、はじめてI期であることが確定します。
このような手術によって、I期であることが確定した場合、手術後、化学療法を行って再発を予防する試みは臨床試験として行われています。
II期
手術は両側の卵巣、卵管、子宮を転移のある骨盤腹膜を含めて切除する方法で行われます。直腸にがんの浸潤がある場合には直腸を含めて切除することもあります。大網は一見して転移がない場合でも切除します。切除した大網を手術後検査すると、顕微鏡的な転移が見つかることがあります。転移があれば、II期ではなくIII期ということになります。後腹膜リンパ節は、手術時に転移が疑われる場合、サンプリングをしてすぐに病理検査をします。病理検査の結果、転移があれば骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節を郭清します。転移があれば、II期ではなくIII期ということになります。
手術後、大網とリンパ節の顕微鏡的検査の結果、転移していないことがわかれば、はじめてII期であることが確定します。
このような手術によってII期であることが確定した場合、手術後、化学療法を予防的に行って治癒率を改善しようとする試みは臨床試験として行われます。
III、IV期
III、IV期のがんは進行がんとして同じように治療が行われます。III、IV期のがんは転移が広範囲にあるため、手術によって完全に切除することはできません。しかし、一部のがんが残ってもできるだけ多くのがんをとり除いたほうが症状を改善できるため、全身状態が耐えられれば、できるだけ多くのがんを切除します。病状によっては手術で大部分のがんがとれる場合もありますが、開腹したけれどほとんど何もとれずに終わる場合もあります。手術前の検査によって、開腹しても切除は難しいと予測される場合は、まず化学療法を行ってがんを縮小させてから手術する方法もあります。
手術は両側の卵巣、卵管、子宮を、転移のある骨盤腹膜を含めて切除する方法で行われます。直腸にがんの浸潤がある場合には、直腸を含めて切除することもあります。大網、後腹膜リンパ節、脾臓、大腸、小腸の一部を転移したがんと一緒に切除することもあります。
手術後、残された腫瘍に対する治療として化学療法が行われます。化学療法の際は、標準治療で行うか、新しい治療法を臨床試験として行うかを選ぶことができます。
初回手術で切除できずに残ったがんが化学療法によって縮小し、切除可能となった場合には再手術が行われることもあります。
再発
再発は治療により一度消失したかにみえたがんが再び増殖して見つかるようになった状態です。再発に対して以下の治療法のひとつが行われます。
(1)手術
再発が一部に限局している場合は、その部分を切除するだけで、再びがんのない状態が長く続くことがあります。再発が広範囲でがんを切除することができない場合でも、症状を和らげるための手術(例えば、胃瘻造設のための手術)を行うこともあります。
(2)化学療法の臨床試験
最初の抗がん剤が非常に有効であった場合は、再発に対しても同じ抗がん剤が効きますが、再発に対する化学療法は症状緩和のひとつとして行われます。最初用いた抗がん剤が効果がなかった場合は新薬を用いることが多くなります。新薬を用いる場合は臨床試験として行われます。腹水を抑えるために、腹水をとった後、腹腔内に抗がん剤を注入することもあります。
(3)放射線療法
脳転移した腫瘍に対しては化学療法でなく放射線の照射が有効です。
8.生存率
生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。
治療後、5年以上経過して生存している場合の割合を5年生存率、10年以上生存している場合の割合を10年生存率といい、治療成績としてあらわします。
国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)の卵巣がんの進行期別患者数と治療成績は以下のとおりです。
病期
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患者数
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5年生存率
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10年生存率
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I期
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72
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91%
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83%
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II期
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23
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72%
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66%
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III期
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163
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31%
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24%
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IV期
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65
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12%
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9%
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(1980年から1997年までの症例の2000年4月までの治療結果)
以下省略させていただきました。詳しくは上記ホームページご覧ください。
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